人は何かを学ぶとき、無意識のうちに「お手本」を見つけそれに倣って知識・技術を習得しています。この「お手本」はビジネスにおいて「ロールモデル」と呼ばれ業務の模範となるだけでなく、多様な働き方が存在する現代において生き方(ワークライフバランス)そのものの参考対象となる人物でもあります。
当然ロールモデルとなりうる人物は特定の人ではありません。同じ部署、同期入社の同性社員であっても興味・得意や個人的、家庭的な事情によって全く違うロールモデルを選ぶことも多く、ロールモデルは常に同じ役割を担っているというわけでもありません。
今回はこのロールモデルの効果や見つけ方について解説していきたいと思います。
そもそもロールモデルとは?
ロールモデルとは1940年代にアメリカのコロンビア大学にて提唱された概念であり、もともとは医師や父母など特定の役割を持つ人物の役割モデルとして定義されていました。
その後ビジネスの分野では、企業の管理職やリーダーシップをとる役職など特定の役割を持つ社員を模倣するための概念として転用されていましたが、今日では業務スキルの習得だけでなく働き方や生き方すべてのお手本として多様化した働き方に対応した概念に変化してきています。
わが国では1990年代からこの言葉が使われるようになりましたが、厚生労働省では2012年に「ロールモデルの育成およびメンター制度導入に関するアンケート」を行い、翌2013年には「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を作成し、特に女性活躍の一助としてのロールモデルとなる女性人材の育成を呼び掛けています。
生産性向上、社員の定着率アップのためにロールモデルの育成を積極的に進める企業もありますが、そもそも個人にとって「見習いたい人」は与えられるものではありません。
それぞれが自分の個性や興味・社会的事情を踏まえたうえで、能動的に仕事や人生の見本となるモデルを選択していかなければ、多様化する社会において本当の意味での「ロールモデル」とは言えないのではない
ロールモデルの効果
そもそもロールモデルは本当に必要なのでしょうか?これに関しては様々な見解があり議論の余地を残すところではありますが、ここでは個人としてロールモデルを見つけることへの効果・メリットについてご紹介します。
「判断基準の参考になる」
特に入社当初~3年目までの若い社員は、経験不足からくる業務上の判断ミスや失敗への恐れから積極的なチャレンジの弊害となることもあります。そんな時判断基準の参考となるロールモデルがいれば道は開け、仕事の幅が広がることもあります。
「ワークライフバランスの参考となる」
出産・育児を控える社員にとって、産休後に復帰した社員、育児を仕事を両立している社員をロールモデルとすることで働き方の選択肢が広がります。
そのほかにもいつも提示で帰りながらも実績を上げている社員、介護と仕事を両立している社員など、様々な働き方をしている社員をロールモデルとすることで自身が描くワークライフバランスの参考とすることができます。
「向上心を持ち続けることができる」
仕事ぶりや実績、部下への接し方など業務面においてのロールモデルを作っておくと、常に先を行く「目標」を目印として向上心を保ったまま仕事をすることができます。
これらのロールモデルは一人である必要はありません。「業務」「ワークライフバランス」それぞれの分野に一人ずつ、あるいは複数のロールモデルを作ることで「いいとこどり」をして自分なりの社会人像を作り上げていくこともできます。
ロールモデルの見つけ方
しかし、「ロールモデルを見つけなさい」と言われてもなかなか簡単に見つかるわけではありません。「この人をロールモデルにしよう」と思って観察していくと逆に「あら」ばかり見えてきて幻滅してしまう、なんてこともあるかもしれません。
そこで、簡単なロールモデルの見つけ方ご紹介します。
「これからのライフイベントを考える」
これからの社会人人生において、プライベートでは結婚・出産・子育て・住宅ローン・介護など、仕事上では昇進・転勤・転職・定年退職・再雇用など様々な出来事が待っています。まずは自分がどのようなライフイベントを経験するか、またはしたいかを想像することがロールモデルを見つけるうえでも第1ステップです。
「いろいろな人とランチをする」
いつも決まった人とランチをするなど、限られた交流関係をしていては職場の多くの人に対しては業務上の狭い範囲でしか見ることができずなかなかロールモデルを見つけることはできません。上司部下問わず、たまには他部署の人をさそってランチ交流をすることで業務外の意外な一面に触れることもできます。それは仕事上、あるいはワークライフバランス上でのロールモデルを見つけるうえで非常に役に立つことなのです。(もちろんランチだけではありません。飲みに行ったり休日レジャーに行くことでも同様の効果が得られます。)
「”いいところ”だけを参考にする」
人はざまざまな一面を持ち合わせています。当然参考にしたい面とそうでない面が存在することもあります。一人のモデルにこだわることなく、「仕事上ではこの人、ワークライフバランスではこの人を参考にしよう」など柔軟に複数の人から良い面を見つけて参考にすることで、自分なりの社会人像を作っていくことをお勧めします。
まとめ
ロールモデルとよく似た言葉に「レファレント・パーソン」という概念があります。
これは、人が行動における判断を下す際に常に影響を受けている存在で、ロールモデルよりも依存度が高い存在です。これには立場的・物理的な支援をしてくれる人や反面教師的な存在も含まれており、一方的に「参考にしている」存在であるロールモデルとは一線を画しています。
いわば受動的、環境的な影響が強いレファレント・パーソンは自らの意思で選択することは(ほとんど)できませんが、ロールモデルは未来を切り開くために能動的に選択することができる存在です。
まずは自分自身にはどのようなレファレント・パーソンが存在し、仕事や人生にどのような影響を受けているのかを自己分析することも「ロールモデル」を選択する上での重要なことなのかもしれません。
皆さんが仕事や人生においてよいロールモデルを見つけ充実した生活を送られることを願っています。
Comments